1. はじめに

日本では少子高齢化や都市部への過度な集中、地方の衰退などの社会的背景を背景に、「空き家」が急増しています。総務省の調査によると、全国の空き家数は約八百万戸を超え、今後もその数は増加すると予想されている。空き家の増加は、防犯・衛生・都市景観の悪化や、防災面でのリスク、管理義務の放置により地域にさまざまな悪影響を及ぼす懸念があります。

一方、空き家問題の解決策にはさまざまな社会政策や行政施策がありますが、法的な側面や制度面からの対策も欠かせません。その中で特に重要なポイントの一つは、不動産登記制度の面からの対応策。正確な登記情報があれば、権利関係の把握や適正な管理、適用法令の実効性を確保できることにつながります。

本稿では、空き家が今後増加することを想定し、登記面からの対策はどうあるべきか、現行制度の課題とともに、具体的な施策等をみていきます。

2. 空き家増加に伴う登記制度の課題

2.1 登記の不備・滅失・不正取得のリスク

  • 未登記の空き家の増加:所有者不明のまま放置された空き家は登記簿に登録されていないこともあり、所有者が判明しない、もしくは登記情報の更新がおこなわれていないケースの多発。
  • 所有権や抵当権の滅失・古い記録:所有権の登記が古くなり放置されている場合、所有者の死や権利の移転が反映されておらず、権利関係が不明瞭。
  • 不正取得や詐欺行為の温床:空き家が未登記のまま放置され、不正に売買や権利移転が行われる危険性。

2.2 重複登記の問題

所有者の権利が複数存在したり、所有者不明の土地・建物の登記情報が古く、正確な権利関係の把握が困難になると、不動産取引の安全性に悪影響を及ぼすことにつながります。

2.3 管理義務違反と権利の消滅・放置

所有者不明状態や放置された空き家の登記漏れについては、所有者の法的義務違反(管理義務違反)を招き、民事上の責任や行政措置も困難になります。

3. 空き家問題に対応する登記面からの対策

登記面からの取り組みとは、正確かつ最新の権利関係を反映させ、不動産の流通や管理、権利保護等を円滑にする制度・仕組みづくりを指します。具体的には以下の方策が考えられます。

3.1 空き家を包括的に把握・管理するための登記情報の整備・更新

  • 所有者情報の最新化:所有者本人が権利者登録や住所変更届出を怠ると、情報の古い登記簿に基づき所有権を推定できなくなるため、行政や登記官による定期的な権利情報の照合・整備が必要。
  • 登記情報の電子化とデータベース化:全国的な電子登記簿の整備により、リアルタイムでの権利情報の更新・確認を可能とし、所有者不明の土地や空き家の把握を容易に。

3.2 行政と協力した所有者不明土地の「所有者特定」の仕組みづくり

  • 所有者不明土地の登記情報の整理:所有者不明や相続登記未了の土地について、行政が所有者の調査を補佐し、登記の更新を促進。
  • 所有者不明土地の登記義務付け・特例制度:一定期間内に登記・届出をしなかった所有者に対して、特別な義務や、所有者不明土地の登記情報の整理促進策を導入。

3.3 所有者表示の義務付けと登記義務の強化

  • 登記義務の拡大:空き家の所有者に対し、定期的な登記情報届出や物件の状況報告を義務付け、未登記や古い登記情報の更新の促進。
  • 登記状態の閲覧・検索の容易化:行政や民間事業者が容易に登記情報を確認できる公開システムの整備・強化により、空き家管理に役立てる。

3.4 不動産の管理・処分に向けた「所有者不明土地情報の公開制度」の充実

  • 不動産登記情報の公開範囲拡大:所有者が特定できない空き家の情報を、全国的に公開し、管理者や行政への情報提供を義務付け。
  • 所有者不明土地の売買促進策とその登記:所有者不明土地・空き家の売買や権利移転には、登記情報の最新化と公示を経て、安全な取引を支援。

3.5 デジタル登記とAI・ビッグデータの活用

  • 登記情報のデジタル化とAI活用:AIによる所有者特定や権利関係のスクリーニング、登記情報の異常検知などにより、空き家関連のリスクを早期に発見。
  • 自治体との情報連携:AIを用いた登記情報のリアルタイム更新により、自治体の空き家対策と連携。

4. まとめと今後の展望

空き家増加に対し、登記制度面からの対策は非常に重要かつ有効です。正確な登記情報は、単に所有者や権利関係の把握だけでなく、土地の適正な取引や管理を促す土台となります。今後は行政・民間等が連携し、

  • 登記情報の電子化・一元化・最新化を促進
  • 所有者不明や長期未登記の土地の登録義務付けや管理促進策を拡充
  • AIやビッグデータを利用した異常検知・土地管理の高度化
  • 所有者に対する情報開示や届出義務の強化
  • 地方自治体や地域住民との連携による管理システムの構築

といった対策が求められます。

これらの取り組みを通じて、不動産の権利関係を明確に保ちつつ、空き家問題の解決に向けた一助とすることが期待されることになります。

5. おわりに

増え続ける空き家問題に対して、登記制度を活用した制度整備や情報の最新化は、地域の安心・安全な環境を守る基本的な施策です。

今後は法改正や技術革新を積極的に導入し、登記情報の正確性と流通性を高める施策を推進することで、空き家の管理、流通、利用がより効率的に進み、地域社会の活性化にも寄与することにつながります。