不動産登記の手続きにおいて、なぜ個人買主はふりがなやメールアドレス等が必要になったのか?

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不動産登記における個人買主のふりがな・メールアドレス記載義務化:背景と改正内容
不動産登記手続きにおいて、2024年4月1日から個人買主のふりがな及びメールアドレス等の記載が義務化されました。
これは、登記の正確性・効率性向上、更には不動産取引の安全性の確保を目的とした改正によるものです。
本稿では、その背景と改正内容について、登記規則の改正点を踏まえながら解説します。
1. 背景:所有者特定の困難性とオンライン申請の促進
従来の不動産登記制度では、所有者の特定が困難なケースが存在していました。特に、漢字表記のみでは同姓同名や類似する氏名の識別が難しく、登記の誤りや権利関係の調査に支障をきたす可能性がありました。
また、相続登記の申請漏れによる所有者不明土地の増加も社会問題化しており、所有者の迅速な特定は喫緊の課題となっていました。
加えて、近年行政手続きのオンライン化が推進されており、不動産登記についてもオンライン申請の利用促進が図られています。
オンライン申請においては、本人確認や連絡手段の確保が重要となるため、ふりがなやメールアドレス等の情報の提供が必要不可欠になってきたということです。
2. 登記規則の改正内容:義務化の範囲と例外規定
今回の改正は、主に以下の法令に基づいています。
- 不動産登記規則(昭和25年法務省令第90号)の一部改正
- 戸籍法施行規則(昭和22年司法省令第94号)の一部改正
これらの改正により、不動産の所有権に関する登記(所有権保存登記、所有権移転登記等)の申請情報に、個人である権利者(買主)のふりがな及びメールアドレス又は電話番号の記載が義務付けられました。具体的には、以下の事項が改正されています。
- 不動産登記規則第60条第1項第5号及び第63条第1項第5号:申請情報にふりがなの記載を追加
- 不動産登記規則第93条第1項第3号:登記記録にふりがなを記録することを規定
- 不動産登記規則第60条第1項第22号及び第63条第1項第20号:申請情報にメールアドレス又は電話番号の記載を追加
ただし、以下のような例外規定も設けられています。
- ふりがな:常用漢字表にない漢字を用いる場合のみ必要(登記研究482号64頁参照)
- メールアドレス又は電話番号:やむを得ない事情がある場合は省略可能(登記研究482号68頁参照)。「やむを得ない事情」とは、例えば、インターネットを利用できない環境にある場合などが想定されます。ただし、その場合は、電話番号の記載が求められます。
3. 改正による効果と今後の展望
今回の改正により、以下の効果が期待されます。
- 登記の正確性向上: ふりがなにより氏名の読み間違いを防止し、正確な登記が可能になります。
- 権利関係調査の効率化: 所有者特定の迅速化により、権利関係の調査がスムーズになります。
- オンライン申請の促進: 本人確認や連絡手段の確保により、オンライン申請の利用が促進されます。
- 不動産取引の安全性向上: 所有者情報の明確化により、不動産取引の透明性が高まり、取引の安全性が向上します。
今後、更なるオンライン化の進展や、所有者不明土地問題への対策強化の観点から、不動産登記制度の更なる改正が検討される可能性があります。
例えば、マイナンバー制度との連携強化や、登記情報のデジタル化などが考えられます。
4. まとめ
個人買主のふりがな及びメールアドレス等の記載義務化は、登記の正確性・効率性向上、不動産取引の安全性の確保、そしてオンライン申請の促進を目的とした重要な改正です。
改正内容を正しく理解し、円滑な不動産取引を実現するために、関係者は適切な対応を行う必要があります。